奇書の世界史、あるいは善悪の価値観について

魔女を憎み、10万以上の人命を奪った『魔女に与える鉄槌』。

神に反逆し、異端なる地動説を説いた『天体の回転について』。


数奇な運命を辿り、評価が二転三転した書物たち。

これは良書か、それとも悪書か――。 

 

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奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語 | 三崎 律日 |本 | 通販 | Amazon

 

もともとは、とある1本の動画が始まりだった。

「Alt+F4」という人物によってニコニコ動画に投稿された、『魔女に与える鉄槌』という書物についてを解説した動画。

魔女狩りのバイブルとなったその本について論じたそれ、氏は"奇書"を紹介する動画を、何本も投稿していく。

 

「Alt+F4」から「三崎律日」に名義を変え、

それらの動画を元に再構成、加筆したのが本書『奇書の世界史』だ。

www.nicovideo.jp

 

"奇書"と聞いて、いくらか本に詳しい人がまっさきに思い浮かべるのは、

ドグラマグラ』『虚無への供物』『黒死館殺人事件』からなる、いわゆる「日本三大奇書」だろう。

「読めば精神に異常をきたす」と謳われるドグラマグラをはじめ、これらの作品は、難解な表現と衒学趣味に満ちている。

 

一方で、本書『奇書の世界史』で語られる「奇書」とは、そういった本とは一線を画す。

本書でいう奇書とは、時代の移り変わりとともに評価が移り変わった書物、

つまりは「数"奇"な運命を辿った"書"物」のことだ。

 

 

本書では、

それまでの常識と宗教を打ち破り地動説を唱えた『天体の回転について』や、

前編が暗号文で記され未だに解読をみない『ヴォイニッチ手稿』、

大人になりたくなかった少年が60年以上執筆し続けた『非現実の王国で』など、

実に14冊もの奇書が紹介されている。

 

今回はその中から『魔女に与える鉄槌』について見ていきたい。

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15世紀末から16世紀初頭にかけて行われた魔女狩りは、実に10万人以上もの命を奪ったと言われている。

 

ふとしたきっかけから「魔女」と疑われた人物は、たちまち異端審問にかけられ、行き着く先には処刑が待っている。

「薬草の知識を持っていた」、「信仰心が薄い」、そして果ては「性格が暗い」なんていったことでさえそのきっかけになったというのだから、一度疑われてしまえば、弁解のしようがないのは想像に難くない。

 

そんな異端審問において、裁判官の必携書となっていたのが、

この『魔女に与える鉄槌』だ。

 

 

教会による(かりそめの)権威付け、活版印刷技術の登場による大量発行、黒死病や不作といった時代性など、数々の要素が魔女狩りを後押しし、

『魔女に与える鉄槌』は、魔女狩りのバイブルとなるにいたった。

(あとは「魔女は人間じゃないから、エロい挿絵いれてもいいよね」って話とかも、この人気を高めた要因と言われていたり)

そのへんの経緯については、この本を読むか、上に貼った動画を見てもらうといい。

 

ともかく重要なのは、

この当時においては魔女狩りが当たり前のものとして行われており、

一冊の書物がその虐殺を後押ししたという事実だ。